大嫌いなあの人。①
僕こと高月五月(たかつきさつき)は川野彰(かわのあきら)が大嫌いだ。
「おい、高月。ジャマ、どけ」
そう僕に言ったのはクラスで1番大嫌いの川野だった。
僕が知る限りでは別に嫌われるようなことはしていないと断言できるし、高校2年生のクラス替えをして初対面のはずの僕に嫌がらせ・・・・殴られたりはないが言葉の暴力を振るう。
「ご、ごめんなさい・・・」
目を逸らし謝る必要はないのだけど超小心者、臆病で目立つ事が大嫌いな僕は謝ってその場を逃げるようにあとにする。
教室を出るとき横目で川野に目をやると、すごい形相で僕を睨んでいた。
すぐに目を逸らし僕は走って逃げた。
何も心当たりがない。どうして僕だけこんな扱いなのか分からない。
2年生なりたての初め。
新しい教室に入り指定された席に向かい座る。
僕の学校生活は誰にも邪魔しないように存在する事を目標に過ごしてている。中学生の頃はそうして過ごしてきた。平和な3年間。高校1年生も同じように過ごしこれからもそれは変わらない、僕だけのスタイルだと思った。
でも違った。川野彰と出会うまでは。
「お前・・・・高月五月って言うのか?」
「そうだけど・・・・えっとごめん。名前なんていうの?」
「・・・・・・お前ムカつく」
「・・・・え?」
「高月、俺はお前が嫌いだ」
川野はそう言って自分の席に戻っていった。僕は訳が分からなかった。川野とは初対面のはずなのにどうしてあんなこと言われなきゃいけないんだ。考えても考えても、答えは見つからない。
その日から平穏に過ごしていた学校生活が黒色に染まった。
川野はいつもクラスの人たちに囲まれて僕みたいな地味なやつが話しかける隙なんて全然ない。
怒ってる訳を聞いて謝ろうと思い、勇気を出して話しかけても無視される。その度に周りから可哀そう。と哀れみの目で見られる。
中にはそれ見て笑う人すらいた。
僕はその度に気分が悪くなりトイレの1番奥の個室へと逃げる。そしてその都度、川野が追いかけてきて「だらしない」「弱いやつ」と文句を言いにきて・・・・最後には大丈夫か?と
声をかけ、優しく背中を撫でてくれる。
もう意味が分からなかった。
ある日の休み時間。
僕は別のクラスの男子生徒3人に呼ばれた。
呼ばれる意味が分からず3人についていくと、そこは体育館裏。
「あの・・僕に何かよう?」
3人はにやにやしながら僕の全身を舐めるように見ながら、僕にこう言った。
「高月ってさ・・・・男もいけるの?」
「・・・・は?なにそれ・・・・?」
こいつら何をいってるんだろう。男もいける?ドウイウ意味ナンダ?
3人の内1人が僕の腕を掴んで壁に押さえつけた。
「いっ!な、なにす、るん・・・・」
僕は恐怖のあまり抵抗することも叫ぶ事もできず震えるだけだった。
「さつきちゃんかわいい~、早くやっちまおうぜ」
「男となんて、って思ってたけどさつきちゃんなら全然いけるな」
「涙目、震えて可愛いよな」
(怖い!!!!!!僕に何をするんだよ!?)
1人の男が僕のズボンと下着をずらし始めた。
汚い。気持ち悪い。僕に触らないで。
頭でそう呟いても声にはならなかった。涙がどんどん奥から溢れ出てくるだけだった。
そんな僕に気づいた1人が顔を近づけてキスをしてきた。
「ん・・・・・・!!!」
ガリッ!!!!
「いって!!!!!こいつ噛みやがった!!」
バシッ!!
左頬に痛みが走った。
(痛い・・・・誰か助けて!・・・・・・そんなこといっても・・・・この時間だし・・・・誰もこないか)
僕は目をつぶりただひたすら泣くばかり。
ゴンッ!!ガッ!!ボコッ!!!
「お前ら何やってんだよ!!!」
遠くから声が聞こえ、その声の主が川野だとすぐには気づかなかった。
僕が見た光景は惨劇になりつつあった。
喧嘩も強そうな川野は3人まとめて殴り、まさに地獄絵図の完成とも言えた。
いくらなんでもやり過ぎだろ。
「か、川野・・・・もう・・・・やめて・・・・」
必死に声を出して川野を止めようとしたが、こんな小さな声で止まるはずがないかと思い僕はその場に倒れた。
「高月っっ!!!」
川野は倒れた僕をみて殴る手を止めて駆け寄ってきた。大丈夫か!?と声が聞こえたけど僕はそのまま意識を失った。
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